なぜアメリカで「SUV & ピックアップトラック」が人気なのか?真相にせまってみた


こんにちは!Car Design Academyの橋本です。

現在、CDAのCommunication Dept.のディレクターをしています。

今回のブログは、アメリカ、ヨーロッパ、日本、中国、そして世界各国の各地域でどんなクルマが売れているのかを、紹介していきます。合わせて販売推移がカーデザインやクルマの開発にどんな影響を与えるかも考えながら見ていきましょう。

そういう訳で初回は、今年2015年4月のアメリカで最も売れているクルマについてです。

去年から今年にかけて、アメリカの新車売れ行きに大きな変化が起こっています。

下記の表の右側を見ると、なんと!売れ行きが伸びているクルマや、売り上げの上位にランクされたクルマは殆んど、SUVか Pic-Up Truckです。売れ行き上位3車種は、GM, Ford, Chryslerのライトトラックが独占。上位10車種のうち、6車種が、ライトトラック部門。所謂、コンパクトタイプのクルマは、カローラとシビックだけ。目立つのは、シボレーのSilverado、Equinox、クライスラーのRAM,トヨタのRAV4、日産のRogue,フォードのF-Series, Escape,これはみんなSUVか、Light Truckなのです。さらに、セダンタイプのクルマは、殆どの車種が去年より、売れ行きが落ちています。ホンダのAccordの-20%を筆頭に、トヨタのカムリが-10%,となっています。

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(Source: NY Times / Motorintelligence.co

このようなデータにて、アメリカ人が、どんな車体のクルマを買うのかを知る事は、カーデザイナーにとっても大変役にたちます。

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フォードのHPより

4月に最も売れたFord F Seriesは、月間6万2千台。

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シボレーのHPより

シボレーのHPから宣伝文句として、史上最も燃費の良いV8エンジンを搭載していると書いてあります。この車種が4月に、4万6千台売れ、ランキング2位に入っています。

アメリカでどんなクルマが頑張って売れているのかというのも、それだけでも面白い情報ですが、それ以上に、カーデザイナーには、もっと意味のある情報が潜んでいます。

そこで例えば、何でPick-UpやSUVが売れているのかを考えてみましょう。

下の記事は、今年の5月1日のニューヨークタイムズに出たアーロン・ケスラーという人の記事です。

 【今年4月に最も売れたクルマ、又してもSUVとピックアップトラックの勝利】

“セダンのトヨタカムリを買おうと思ってディーラーに来たお客さんが、実際は小型のSUVを買っていってしまいます。彼らは、そのSUVの方が, たとえ何百ドルか高いクルマでも、SUVの方が、余計に払ったお金以上により価値のあるクルマを手にすることができると考えています。そして、実際、小型のSUVはセダンと比べて数百ドルの差しかないのです。そして、燃費も充分競争力のあるものなのです。

 

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※画像、価格、燃費データは、TOYOTA MOTOR SALES, USAのHPより

トヨタRAV4, カタログプライスが23,680ドル、燃費が24/31MPG。一方のセダンのカムリが22,970ドル, 燃費は31/35MPG。4月は、カムリが前年同月比マイナス10%, RAV4は、前年同月比がプラス21% という結果でした。

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※画像、価格、燃費データは、日産USAのHPより

写真は、日産Rogue, カタログプライスは、23,060ドル。燃費は、26/33MPG. 前年比プラス45%の売り上げは、ランク入りした車の中で一番の伸び。一方、従来からの人気セダンのAltimaのカタログプライスが22,300ドル。燃費は27/38 MPG. 前年比売り上げマイナス11%でした。

アメリカの消費者、クルマの新規購入をする人のSUV・ピックアップトラック志向は、2014年から始まっています。下記の過去10年のクルマの乗用車対ライトトラック(SUV,Pick-Up Truck, Small Size Truck) の表を見てください。棒グラフの青色がライトトラック(SUVを含みます)、緑が乗用車です。2014年は、乗用車が売り上げを減らして、ライトトラック部門は売り上げを伸ばした最初の年です。これが、まさに、NYタイムズの記事の言っていることで、更に、その傾向が2015年に入って加速しているのです。

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(Source: Auto Alliance / WardsAuto)

このニューヨークタイムズの記事、ちょっと面白くありませんか?

これは、アメリカ経済と消費者の深層の動きを示していると思います。まず、第一に、クルマを買う人は、多少高くても、自分の好きな物を、多少の燃費の差なら、買っているのです。何故、そんな事が起こっているのでしょうか。

一番大きな理由は、数年前と比べてアメリカの雇用が良くなっているからです。リーマンショックから2-3年の間は、失業率を見ると、5%から9%台に増加しました。これは、失業している人が20人に1人だったのが、約10人に1人の計算です。この時期、クルマ全体の売り上げは、年間1300万台から1000万台ちょっとまで落ち込んでしまったのです。現在はそれが1600万台を越してきていますし、今年2015年は、もっと売り上げを伸ばすと言われています。直近に発表された5月の新車販売台数は、年換算で1700万台を越してきています。

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(Source: US Federal Reserve Bank St. Louis)

現在、アメリカの失業率は5.4%です。失業者は、約20人に1人に戻ってきています。よってクルマを買う人の財布が底上げされて、もっと高いクルマを買う余裕が出てきていると言えます。

そして、NYタイムズの記事の最後の行に出ていたのが、二つ目のポイントです。それは、ライトトラックの燃費も、充分に競争力をつけてきていると、言っているのです。下記のグラフは過去十年の原油の値段です。

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(Source: SBI Sec./Quants Research Inc.)

2014年夏前の4年間ほど、原油の値段は100ドルぐらいで、高値安定していました。その間、各自動車会社は、原油の値段はもう下がることはないからと、燃費の良いクルマの開発に専念しました。例えば、トヨタのプリウス、ホンダのフィット、又、GMや日産は電気自動車に、VWは、ディーゼルエンジンにターボチャージャーを搭載してエンジンの小型化で、燃費を良くしてきました。こういった各社の燃費改善の努力がセダンや小型車だけではなく、ライトトラック部門にも波及していきました。それにより、クルマを買いに来たお客さんが、SUVの燃費も悪くないじゃないか!ということになったのです。今のSUVやPick-Up Truckは、ガソリンをがぶ飲みする昔のライトトラックとは違うのです。そして今後とも、昔の燃費の悪いクルマに戻ることはないでしょう。アメリカの消費者も研究してきていますね。

 

ところで、この原油の値段のチャートを見てちょっと奇異に感じませんか?

 

景気が良くなってくると、普通は、物の値段は上がります。石油の値段も上がるはずです。しかし、今回は正反対です。何故でしょう?これは、シェールオイル開発の影響なのです。シェールオイルというのは、世界中の頁岩(けつがん)という岩石に含まれている石油のことです。残念ながら、わが日本には、殆んどありません。その頁岩を地中から採掘して、石油を搾るのは、昔は、技術的にも難しく、金額的に採算に乗らなかったのですが、この数年の原油の高騰で、商業ベースの採算に乗ることになってしまったのです。そして、採掘が始まると、世界一の石油輸入国だったアメリカが、いまや、世界で有数の石油産出国になってきたのです。

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※シェールオイル採掘の油井です。Energy.Govより

CNNによると、アメリカの産出量は、2015年には、一日辺り965万バーレル。これは、(イラン、イラク、クウェートの産出量の合計とほぼ同じです)

去年の後半から今年の春にかけて、世界の石油事情は供給過多のために、値段は100ドルから50ドルまで暴落しました。このため、アメリカのエネルギー業界全体で5万人が職を失い、石油会社の株も大きく下げた。とのことです。

この供給過多をなくすために、石油油井という汲み上げる井戸を閉じたのですが、その影響は少なくとも6ヵ月は出てこず、大きな反発にはなっていません。その間にOPECから石油の値段を実質的に仕切っていた石油輸出国の同盟が、力を失ってきています。これが、現在実際に起こっていることなのです。

さて、それでは、今後の石油の値段はどうなっていくのでしょうか?相場物ですから、簡単には言い切れないところがあります。ですが原油の値段が上がってくるような経済状態が全世界的に出現すれば、今回、アメリカで停止したシェールオイルの油井が再活動をするとみられています。価格が極端に高騰するような場面は少ないと、International Energy Agencyの今年の中期見通しが出ています。ですから、石油価格は、今後の経済状態にもよるのですが、100ドルに戻るような場面は想定しなくても良さそうです。要するに、シェールオイルという新しい供給ができたため、価格が安定的に推移しそうだということです。もちろん、中東産油国に大きな政治的変化があれば、全く、別でしょうけれども。

そこで今度は、貴方が新車の開発者や、カーデザイナーとして、上記に述べてきたようなことが将来のアメリカでのクルマ開発にどういう影響を与えるかということを考える番です。特に、新車開発やデザインのコンセプトを考える時に、消費者の嗜好というのは、実体経済とは切り離して考えることはできません。まさに、カーデザインという仕事も現実から隔絶したところにいるわけではないということなのです。

今回は、アメリカの4 月の新車販売を参考にしましたが、これからは、他の国や地域も見ていこうと思っています。又、何らかの基調的な変化があれば、その時は速報でお伝えできればと思っております。

 

最後に

Car Design Academyの監修を勤めている栗原典善が面白いアイデアを、4月の自動車誌「TIPO」に発表しました。それは、Sports Utility Pick-Up Truck (SUP) というものです。スポーツカーの後ろの部分を荷台に変えたもので、スポーツカーのキビキビとした走りと、ピックアップトラックの実用性を兼備した新しい発想です。確かに、これなんかは、アメリカの消費者の心をくすぐるクルマになるかも。数年後のアメリカのフリーウェーを席巻しているかもしれないですね。カーデザイナーには、こういった現状から飛躍して、コンセプトを創っていくことも求められるのだと思います。

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 <記者紹介>

橋本義宣=NORI.INCのインターナショナル分野のディレクター。

外資系銀行で、国際金融の仕事を四半世。カリフォルニア大学サンディエゴの大学院に50歳からの留学という異色の経歴を持つ。今後もカーデザインの世界を金融マンとしての視点を入れた記事を、投稿していく予定。

 

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