【Food de Soul vol.2 山下敏男氏執筆】第1部 :トレーラーハウスの社会貢献について


Food de Soul vol.2, Trailer House

2回目の『Food de Soul』。今回はトレーラーハウスをテーマに、デザインの可能性について、その幅の広さや社会貢献に関するお話しをしたいと思います。

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筆者紹介 山下敏男 博多工業高校工芸科卒業後の1968年、日産自動車にデザイナーとして入社。2代目バイオレットを皮切りに、様々なプロジェクトに携わる。フェアレディーZ Z32のデザインを代表に、シルビア240SX、スカイラインGT−R、インフィニティG35、Q45など、車本来の魅力を伝える数々の車種を手がけた。2008年には首都大学東京の教授に就任し、多くの学生にトランスポーテーションデザインを教えた後、インテロバングデザイン株式会社を設立。2015年より、Car Design Academyの講師に就任。

インタビュー

『トレーラーハウス』という言葉そのものは、和製英語で、英語ではモービル・ホーム(mobile home)、トレーラー(trailer)、ハウス・トレーラー(house trailer)、トレーラー・ホーム(trailer home)、サタティック・キャラバン(static caravan)などと呼ばれています。

そして、トレーラー・ホーム(英:trailer home)やトレーラーハウス(和製英語)は、キャンピングトレーラーの体裁を取りながら、特定の場所に定住する目的で設置されるもののことを指します。電気や上下水道などを車両内で完結させず、公営企業のサービスを直に受け入れるものが多く、「タイヤがついたプレハブ住宅」と言われています。中には驚くほど豪華なものも。

一方、キャンピングカーは欧米のキャンピングカーメーカーが、少し大きなトラック系の車で牽引可能なものを製作していますが、中でもアメリカの「エアストリーム(Airstream)」は特徴のある丸みを帯びたアルミニウム製のボディデザインで若い人たちにも根強い人気があります。牽引に関しては法律的な制限などがあるので詳細はそちらを参照してください。今回は「トレーラーハウス」という言い方をあえてさせていただきます。

尚、今回の『Food de Soul』は前半と後半を一部と二部に分けてお話したいと思います。第一部は、トレーラーハウスの社会貢献的な部分での現状把握。第二部は、私が携わっているトレーラーハウスのデザイン開発に関して。是非とも、一部二部通して読んでください。あなたの魂の食事になりますように期待しています、Food de Soul!

第一部:トレーラーハウスの社会貢献

私は昨年の6月に起業しましたが、その時すでにトレーラーハウスのデザインに着手をしていました。そのキッカケとなったのが前職の首都大学東京システムデザイン学部で教授をやっていた時、トランスポーテーションデザインを教えていた縁で担当させていただくことになった、ある研究プロジェクトです。

これは、東京都の総合防災研究のプロジェクトに於ける災害対策用モビリティの研究と言うもので、2013年から始まっていました。私はトランスポーテーションデザインを教えていましたが、常々デザインの社会的な貢献を考えていましたし、デザインの可能性を拡大することを考えていました。そこで学生も交えて試行錯誤した結果、通常時は公共の場所に置き何らかの施設として活用(例えば図書館や託児所など)することができ、一度災害が発生した時には現地にいち早く駆けつけ、診療施設や避難所、あるいは情報を得るための通信施設の基地などのような使われ方を提案しました。(勿論これらは私一人の提案ではなくプロジェクトチームの提案です。)

この時に完成したトレーラーハウスは写真にあるようなシンプルで使い勝手が良く、2階建てにもなる優れたものでした。但し、これは研究用なので、現在その可能性などに関しては大学の方で引き続き研究されています。

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これが首都大学東京時代に製作したトレーラーハウスです。名前を「MOBIPO」と付けました。移動できる基地(Mobile Port)という感覚です。災害時には色々な役割を担って活躍してほしいと考えました。二階部分はテントでできています。内部の鉄骨構造を組み立て、引き伸ばすことで通常は平屋しか有りえないトレーラーハウスを二階建てにして、容積率を最大化(2倍)させるのが目的です。産学連携の一環として、首都大学東京とカンバーランド・ジャパン(長野にあるトレーラーハウスの製造・会社)との共同製作となりました。

日本は2011年3月11日に東日本大震災を経験しました。未曾有の被害で、今も被災地は復興半ばということですが、今回の社会貢献のテーマが実はここにあります。

2005年8月末に米国メキシコ湾岸地域を襲ったカテゴリー5のハリケーン・カトリーナ災害をご存知でしょうか?この災害では、ルイジアナ・ミシシッピー・アラバマの3州を中心に強風・降雨・高潮による最悪の被害が発生しました。特に大きな被害を受けたのはニューオリンズ市でした。堤防の決壊で中心市街地の8割が水没。つまり『想定外の災害』と言うことです。救援活動は滞り管理体制が混乱する中で、人々は食住の不足に直面します。衛生面での問題や混乱に乗じた盗難などかつて経験のない状況に被災地がおかれました。

<被害の概要>ハリケーン・カトリーナは8月24日にカリブ海で発生、一旦、フロリダ半島に上陸し、その後、 メキシコ湾で勢力を強め一時カテゴリー5のハリケーンとなり、その後、8月29日ルイジアナ州に上陸。8月31日、前線の一部となりました。人的被害:死者1,420人(ルイジアナ州932人、ミシシッピー州221人、2005年9月30日時点 (RobertLindsay調べ)、被害総額:USD750億(AIGによる推定)というもので、1928年以来、米国では自然災害により約80年ぶりに1000人を越える死者が発生する事態となりました。死者の大部分は市域の8割が冠水したニューオリンズ近辺で発生し、ミシシッピー州のメキシコ湾岸では最大9mを越える高潮による住宅被害も発生したとのこと。

このような状況の中でトレーラーハウスは短期的居住をする支援策として幾つかの対策案の一つに選ばれました。屋根にブルーシートを貼って一時的に居住を可能にする対策や、家賃の補助(しかし殆どの地域が水没したため、ホテルなどの施設も十分には活用することができなかったと言われています)そして、トレーラーハウスの提供というものがありました。

これらの対策はFEMA(連邦危機管理庁:FederalEmergency ManagementAgency)によるもので、トレーラーハウスは緊急的に全米から集めることになりました。およそ一週間で約5000台のトレーラーハウスが集まり、仮設住宅の役割を果たすこととなります。このトレーラハウス、モービルホームによる支援はルイジアナ・ミシシッピー州併せて8万5千戸以上の供給となり、阪神・淡路大震災の49,638戸を超す規模での仮設住宅の供給となりました。

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応急居住の状況(206年3月28日ルイジアナ、206年1月6日ミシシッピー)

(出典:FEMA、ルイジアナ州 http:/www.fema.gov/news/newsrelease.fema?id=24759
ミシシッピー州 http:/www.fema.gov/news/newsrelease.fema?id=242)

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カトリーナ関連出典:
ハリケーン・カトリーナの災害対 応と復旧・復興 -米国の危機管理システムは如何に
機能したのか- 牧 紀男・林 春男 「自然災害科学 J.JSNDS25-2221-231(2006)」

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出典:ハリケーン・カトリーナによるニューオリンズ災害 その復旧から見たTNTの課題 -平成22年度東海ネーデルランド高潮洪水地域協議会 第2回講演会「米国における危機対応の今とTNTの課題」 2011年3月2日、ウィンクあいち- 名古屋大学大学院工学研究科 辻本 哲郎

 

FEMAは、直ぐに住居として使えるキャンピングトレーラーを15万台を購入しました。直ちにトレーラーパークとなる土地を確保し、被災者へ仮設住宅として提供したのです。アメリカでは、ハリケーン・カトリーナの失敗を教訓に、直ちに仮設住宅として使えるキャンピングトレーラーが大災害に使われる様になりました。

出典:アメリカ発!大災害時にはキャンピングトレーラーが世界の常識!

では日本ではどのような対策がなされているのでしょうか?
2011年3月11日の東日本大震災では多くの方が亡くなられ、そして被災地では仮設住宅に今でも住まわれている方がいらっしゃいます。そして、津波で流された土地の一部では津波危険区域に指定され、非住宅地に指定されており、今後住宅を立てることが不可能になっています。勿論被災地では、仮設住宅による対策で多くの方が生活をされていますが、これまで町として住んできた土地が住めない状況になっていることに、悲しい思いをされている方がたくさんいらっしゃるのも事実です。

そこで活躍するのがトレーラーハウスです。トレーラーハウスは建築物ではありませんので、コンクリートの基礎を作る必要がありません。土地があれば車で牽引してきて、置くだけです。つまり設置するだけで生活ができるようになります。上下水道や電気ガスの手配は必要ですがそれだけあれば生活が始められるのです。現実の話として、トレーラーハウスを利用した宿泊棟や消防施設、あるいは集会所や簡易的なお店なども始まっています。2012年12月には宮城県女川町に宿泊村「ELFARO」がオープンし、年末年始に、被災者の家族の方が宿泊できるようになりました。それ以外にもトレーラーハウスは様々な形で被災地に貢献しています。トレーラーハウスの利点は、設置に関しては建築許可が不要であるということ、そして解体は移動するだけで完了、と言うことで、とても環境に優しい「モノ」と言う事が出来ます。

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出典:株式会社カンバーランドジャパン  宮城県女川町に宿泊村「ELFARO」

今後の日本の課題を説明し、第一部を終わりたいと思います。
アメリカのケースでは、被災直後1週間で5000台のトレーラーハウスが集結しました。これは驚異的な数字だと思いませんか?アメリカ映画などを見ると、確かにトレーラーハウスのようなモノをよく目にします。最終的には85000台あまりが集結したという事ですので、驚くべき数字です。日本にどれだけのトレーラーハウスがあるのか正確な数字は知りませんが、2000台あるかどうかではないでしょうか?
仮に大きな地震が今後発生した場合、仮説住宅の建築を待たずしてトレーラーハウスの手配が可能であれば素晴らしい事だとは思いませんか?もしそうであれば、震災が起きたとしても一週間程度で安心した生活に戻る事ができるのですが、それには日本中にトレーラーハウスをたくさん保有しておく必要があります。最後にその活動をご紹介し一部を終わります。

山梨県富士河口湖町に災害発生時対応型「レスキューRVパーク」がオープンしました。この活動は、河口湖自然楽校が継続的に取り組む「東日本大震災」復興支援活動の成果として、山梨県富士河口湖町に移住交流による地域活性と新しい防災ライフを提案するものです。本プロジェクトにおけるRVとは「レクリエーション&レスキュービークル」の意味で使用しており、防災仕様の「キャンピングカー」や「トレーラーハウス」を現わしています。
これは、米国のFEMAによる、モービルホーム(トレーラーハウス)を活用した被災地支援と防災のモデルを取り入れたものです。今回の防災型「RVパーク」開設にあたり、河口湖自然楽校では、独立行政法人産業総合研究所と共に、宮城県気仙沼市「五右衛門ヶ原」の仮設住宅地にトレーラーハウスを二台提供しました。被災者にご利用いただく中で、被災地におけるトレーラーハウスの活用に関する実証的なエビデンスを蓄積し、今回の「RVパーク」の仕組みづくりに反映されています。

出典:株式会社カンバーランドジャパン
清水国明の森と湖の楽園「レスキューRVパーク」より

追加資料です。米国のRVパークの保有台数は(一箇所300台~1300台規模)1998年17000ヶ所から2008年の10年で20000か所に増加しています。全体数が多すぎてつかみきれませんが、かなりな数がRVパークとして登録されているということです。
出典:米国RPTIA(リクレーショナル パークトレーラー インダストリー アソシエーション)等

そして、日本には備蓄しているトレーラーハウスが少ないため、このような施設を日本各地に造っておくことで、いざという時のための備えにするという計画です。ちなみに、仮設住宅のプレハブについては「仮設の定義」から、2年で解体することが原則となっており、一般的に30㎡仕様で630万円位です。2年後の解体費込となります。

トレーラーハウスの場合2年で480万円位+ライフライン100万円位に設定されているようです。当然、引き取り費用等も含まれています。カンバーランドジャパン社基準のトレーラーハウスの場合「耐久年数30年」は使用可能なため、平時に宿泊事業を行い維持管理費などその他を回収することができます。宿泊施設として経営した場合、2人で1泊1万円として年間稼働率20%の設定で73万円の収入となります。(1日1万円×365日×20%=73万円)5年ほど宿泊用に活用したと仮定すると、350万円強の収入も可能になります。10年で700万円以上の収入も可能と言うことです。このことから、仮設の場合は2年(基本的に)で解体しゼロになりますが、トレーラーハウスの場合は30年が耐久年数になっているため、再利用が可能でありサステイナブルで環境に優しいと言えます。

 

第2部につづく 【Food de Soul vol.2 山下敏男氏執筆】第2部 : トレーラーハウスのデザイン事例

 

 

 

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