【Food de Soul vol.2 山下敏男氏執筆】第2部 : トレーラーハウスのデザイン事例


第二部は起業後の初仕事の報告です。株式会社カンバーランドジャパン(以降カンバーランド)はこれまでアメリカタイプのトレーラーハウスを製造販売されていました。

会社創立20年を記念しオリジナルでトレーラーハウスをデザインしたいと考えていたところ、私に相談をいただき、日本で初のトレーラーハウスデザインを目指したわけです。ここからは、カーデザインというよりはプロダクトデザインの延長線上にあるデザインとして話を進めます。

 

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筆者紹介 山下敏男 博多工業高校工芸科卒業後の1968年、日産自動車にデザイナーとして入社。2代目バイオレットを皮切りに、様々なプロジェクトに携わる。フェアレディーZ Z32のデザインを代表に、シルビア240SX、スカイラインGT−R、インフィニティG35、Q45など、車本来の魅力を伝える数々の車種を手がけた。2008年には首都大学東京の教授に就任し、多くの学生にトランスポーテーションデザインを教えた後、インテロバングデザイン株式会社を設立。2015年より、Car Design Academyの講師に就任。

インタビュー

 

先ず、デザインするにあたり、コンセプトを練りました。トレーラーハウスは移動体ですが原則的には建物ですから住むための道具として考えました。但し、今回はカンバーランドのトップモデルとして存在感が大変重要であるモデルとのこと。ここからは、カーデザインの進め方と殆どが共通していると考えます。
1)  イメージ構築:ターゲットユーザー層を決定

2) ストーリーを模索し生活のポイントを探る

3) サイズは予め決定しているが、自動車と一番異なるのは設置されるシチュエーションが重要であるということ(自動車は動き回るので、環境は常に変化している)

4) デザインキーワード設定→コンセプトパネルを作成

5) アイデアスケッチ→レンダリング

6) 検討会→承認→図面化

7) 製作(サイズはかなり大きく、コンセプトモデルだが気合いが入った)

8) インテリアのデザイン及びレイアウト決定

9) カラー及び各種仕様の決定

10) 製作しながらの変更や戸惑い

11) 完成間近での変更、あるいは思い違いによる手直し

12)完成

以上がおおよその開発プロセスです。車の開発と同じですが、一番異なる点は型がなく一品製作である事です。また、車と違って自由曲線はかなり難しく、その中で従来のトレーラーハウスの概念を変え、新しい価値をどうのように表現するのかがデザインの醍醐味です。

では簡単にプロセスをスケッチなどを交えて振り返ります。

1) イメージ構築:ターゲットユーザー層を決定
今回ターゲット層を「団塊の世代」にしました。
コンセプトは、
・斬新かつ独創的なデザイン
・ユーザーを刺激し創造する『高密度空間』の実現
・新しいライフスタイルの挑戦を喚起するプラットホームの提供
一生懸命働いてきた団塊の世代に「遊び心」ある提案をしたいと考えました。

2) ストーリーを模索し生活のポイントを探る
団塊の世代の価値観のイメージと物に対する憧れを想像し、構築しました。室内におけるアルミ製の家具などは、アメリカのセンスで揃えています。
そして、アーネスト・ヘミングウェイの洒落た詩をテーマにしました。『我々はいつも恋人を持っている。彼女の名前はノスタルジーだ。』この言葉から、ノスタルジアを今回のコンセプトの主題にしました。

デザインで最も重要な点は、どのような価値観をデザイナーは表現するのか?という点です。進むべき方向はめったやたらにスケッチを書いても出てきません。どこに向かうのか、どのような価値を表現するのかが重要であるというわけです。

ストーリーを決めた後は結構スムースでした、カンバーランドの原田社長(今回のクライアント)とは以降悩む事なく、楽しく決めていく事ができました。

3) サイズは予め決定しているが、自動車と一番異なるのは設置されるシチュエーションが重要であるということ(自動車は動き回るので環境は常に変化している)
一度目的地へ移動するとかなりの確率でその場に止まっているのがトレーラーハウスです。よって、地域への環境への配慮は十分に考えておかなければなりません。その意味でも、置かれた場所の雰囲気がぐっと向上するような、優れたデザインでなければ存在を許されないと考えました。

4) デザインキーワード設定→コンセプトパネルを作成
ラフスケッチを進めながら、キーワードを織り込んだコンセプトパネルを作成し、クライアントとのイメージを確実な物としていきました。コンセプトパネルは特に重要だと思います。今回お見せしますが、無断で使用している物もありますので、申し訳ありませんがボカした状態で掲載させていただきます。

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コンセプトパネル

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エクステリアデザインコンセプト

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インテリアデザインコンセプト

 

5) アイデアスケッチ→レンダリング

アイデアスケッチはサムネイルスケッチを書きためていました。スケッチの中で最も重要なことは、デザイン意図が明確であること。オリジナリティがあり新鮮であることです。
また、コンセプトをいかにデザインで表現するか、キーワードをどのようにデザインに織り込むのかが難しい点でもありますが、コンセプトが明快な分だけ狙いを絞ったアイデアの展開をすることができました。
トレーラーハウスのデザインは生まれて初めてでしたが、スケッチに際してはむしろ知らない強みを出すことで、これまでにない斬新なデザインを探すことができたと思います。

サインペンやボールペンなどを使ったスケッチを書きながら、イノベーティブなデザインを探しました。しかしこれはチャレンジでもあります。従来のアメリカンな住宅ではないモダンで先進的なデザインがどこまで受け入れられるかが不明で、かなりリスクを伴う挑戦でしたが、クライアントとの合意のもとで進めることができました。
もちろん、ここに提案したデザインの方向以外に2つの提案を行い、合計3案で採取決定に望んだわけです。今回はそのうちの一案(決定案)だけをお見せします。

 

アイデアスケッチと形態テーマの模索スケッチ

最終的に進めたのがこのアイデアスケッチです。室内空間を守る外壁のプロテクターのイメージは、頑丈さと懐かしさを表現しています。モダンでありながら、それでいて少しレトロな感覚を持ち合わせている。新しい旅出をしっかりサポートしてくれる道具のイメージです。大切な人を守るにはこの強さが必要であると感じさせるデザインを心がけました。

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ラフなスケッチから展開したアイデアスケッチ。

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最終レンダリング

このレンダリングをもとにパッケージ図の製作に入りました。

今回はもう一つデザインに影響を与えたアイテムがありましたので紹介します。
それは、アメリカの家具です。Restoration Hardwareのティーテーブルとサイドテーブルそしてチェアです。これらのデザインは力強さや存在感、それらに加え人生の価値のようなものを表現しています。家具や環境などに強く触発され、それに負けないデザインを表現するような意識は誰でも持っていると思いますが、常に自分の引き出しを多く持っていることが重要なのだと感じます。

 

Restoration Hardwareの家具たち。アルミのクラッシックさを現代風にアレンジした、個性豊かな洒落たデザイン。

12) 完成

デザイン決定後、レイアウトの検討や内装外壁の素材などを決定し、次々に課題を解決しました。課題の中には、解決困難なものもありましたが、現場の方々との連携で、ともかく進めることができました。例えば、
• ルーフのソーラーパネルは廃止する
• ルーフのカーブは木造で表現できる範囲に納める
• 入り口ファサードの軒?に関してはテント素材で対応する(オリジナルは樹脂成形を想定)
• プロテクターのイメージを表現した外壁の凹凸は、限りなく小さくする中でギリギリイメージが残せる段差で決定
• 室内に半地下を造り、大人の遊び場の表現をする為に、ベッドルームとの高さを取り合いながらベストバランスを模索

このような課題をクリアしながら、私にとって初めてのトレーラーハウスの一号車が完成しました。(このような取り組みは、カンバーランドジャパンでも初めてだったようです)最終的に日程を守りながら完成しましたが、自分自身が自動車の開発に携わった時に感じることができた、ワクワク感をトレーラーハウスの開発で感じられたことが大変有意義な経験だったと感じました。

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レンダリングから起こした正面図(全幅 3.48m × 全長 12m(総全長 13.1m) × 全高 4.1m)

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エクステリアデザイン

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インテリアデザイン(リビングとベッドルーム・半地下)

 

『Food de Soul』2回目はトレーラーハウスを取り上げました。プロダクトデザインの開発は、アイテムは様々変わることがあっても、デザイナーとして考えるプロセスは同じであると考えています。

開発の流れ、プロセスはカーデザインと全く同様であり、最近いろいろなところで言われている「デザイン思考」と言う考え方は自然に適応されているのだと思います。カーデザインを志している皆さんには余り関心のないテーマだったかも知れませんが、デザインも進め方の基本を『カーデザインアカデミー』で学ぶことによって、幅の広い知識やスキルが身につくのではないでしょうか。

最後に、一部で述べたデザインの貢献はデザイナーにとって重要な課題でもあると思いますので、是非とも今後大いに社会に貢献して欲しいと思います。その為には、2部で述べたようなカーデザインの経験や知識が必要であることを忘れずに、これからの訓練に励んでいただきたいと思います。次回の『Food de Soul』もお楽しみに。

第1部はこちら 【Food de Soul vol.2 山下敏男氏執筆】第1部 :トレーラーハウス社会貢献について

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